2008-11-10 創立50周年記念事業

都市デザイン競技 『文化の香り高い都市(まち)づくりに向けて』

テーマ:
「姫路城を望むおもてなし空間」

趣旨:
今、姫路市では高架事業の完成を間近に控え、(財)都市づくりパブリックデザインセンターによる、魅力と活力あふれる交流都市の創出をテーマに、姫路駅周辺地区を対象としたアイデアコンペが実施され、多くの優れたデザインが提案されているのではないかと、発表が待たれるところであります。

これからの駅周辺整備にあっては、これらのアイデアを生かした都心地区の再生が期待されるところでありますが、一方、姫路市の文化のシンボルゾーンである姫路城周辺においては、家老屋敷庭園が整備され、本年2月には大手門前の武者溜まりが完成して、一段と城は映えるものとなりました。

しかしながら、濠と緑と橋が調和し、都市のゆとりとして素晴らしい城郭環境が演出されたにもかかわらず、残念ながら城と都市まちとの一体感に乏しく、城の足元である中心市街地にあっても、国宝姫路城を擁する都市としての歴史文化的雰囲気が伝わってきません。

姫路城が世界文化遺産となり、今後とも姫路のシンボルとして城を守り、育て、世界から来訪者を迎え入れなければならない以上、私たち都市まちは城に対して何ができるのか、何をしなければならないのか具体的に示さなければなりません。
来訪者に魅力ある姫路固有の文化を伝え、情報を発信し国際交流へと繋がっていくことは、都市まちに人の賑わいをもたらし経済に活力を与えます。

私たち建築士会姫路支部は、支部設立50周年にあたり、上記課題を踏まえた姫路城周辺のあり方について、いろいろな観点からのアイデアを求め、市民の皆様と一緒にその実現に努力して参りたいと考えています。

 

審査当日は、例年より少し寒い晴天の日でした。25の出品作品は、受付の番号順に無記名でパネルに張られテーブルに並べてありました。そこに審査委員会の審査員6名が登場です。審査は、作品パネルと計画主旨の文章とが対象になっています。審査員は、パネルのおかれたテーブルを何度も行き来し 時間をかけて優秀作品を選び出していきました。約2時間の激論を経て、数点の作品に絞り込みました。

ところで出品作品について一言。作品は、コンペ出品馴れした物(模型を作り写真撮影したもの、CGパースを巧みに利用したもの)から、切り貼りのコラージュ物まで多岐にわたっていました。応募作品のレベルに少しばらつきが見られましたが、これは応募者の年齢層が幅広かったからです。主催者にとっては ありがたい話です。

6名の審査員は、これらにとらわれず 『姫路城を望むおもてなし空間』を純粋に考察されたものを 次々と選択していきました。
審査は、選考が進むにつれだんだん熱をおびてきて大変でした。結果 最優秀賞は、大手前通りをテーマに選び 歩行者道路をセンターに設け様々な提案を繰り広げた作品に落ち着きました。

さらに激論の賜物として、当初予定に無かった特別賞を設けるほど、力作に恵まれた審査会でした。(藤本正敏)

審査結果(敬称略)  

応募総数:25作品

最優秀賞:
岸本友恵・脇田泰成・福元美紗 (鹿児島市)

優秀賞:
本多和之 (泉南市)
本田鉄兵・永野俊哉 (大阪市)
あかし夢街道(寺田昌代・大西和彦・嶋田邦男・高橋 悟・花畑 裕・廣岡茂久・藤田大介・松尾一久・松尾新吾)(明石市)

特別賞:

田持成輝・大隈亮佑 (藤井寺市、神戸市)
Hs Work Shop – ASIA
平沼孝啓 (大阪市)

 

審査委員会(敬称略)

委員長:
兵庫県立大学教授  志賀咲穂

委員:
神戸大学准教授 三輪康一
姫路市技術審議監 宮原 慎
第40代姫路お城の女王 柴田 香織
姫路市商店街連合会会長 松岡淳朗
兵庫県建築士会姫路支部長 西田 清

 

城下町どまんなか
岸本友恵、脇田泰成、福元美紗(鹿児島市)

 昔も今も、姫路のどまんなかには、世界遺産・姫路城があります。
 世の中は成熟社会を迎え、人々は都市回帰を望み、交通体系は変化していきます。
  現在の車道部分を歩道化、車道は現在の歩道側に車線を減少させ、トランジットモール化し、再配置します。
  どまんなかの歩道部分の両側に、町屋のスケール感を取り入れた出店スペースを設け、カフェ、おみやげ店のほか、城下町の情緒あふれるお店を集めてにぎわいを創出します。
  出店スペースのところどころには、左右の町名を付けた「横丁」というポケットパークを設け、観光の拠点とします。
  国道2号線をわたった丸の内側では、出店スペースに「姫路都市センター」を設けます。
  都市センターは、城下町時代から、戦災復興、そして今日までの姫路のまちづくりを紹介する博物館で、昔の絵図や、城下町の模型、近代都市の設計図などを収集・展示します。
  どまんなか通りから都市センター、城と進むに従って、町人地、武家地、城内の情緒を順に体験します。
「城下町どまんなか」構想は、姫路の過去と現在・未来を結び、姫路のまちを、訪れる人々の心のどまんなかに印象づけるプロジェクトです

天守閣に一番近いまち(男山南地区)
本多和之 (泉南市)

 

「おもてなし」とは趣向を凝らした演出の中に、「おもてなし」する人がいて、
お客様がいて、そして、「時間と空間を共有するドラマ」だといえます。
姫路を訪れる人が「姫路城」「旧城下町」「近代的なまち」の3つを体感することができた
ならば、姫路というまち全体をおもしろいと感じ、また、それぞれに興味を持って訪れる
ことができると思います。そういった意味で重要な要素である「旧城下町」の雰囲気を残
す「男山南地区」を提案の対象地区としました。
城が世界遺産であるならば、その城下町もまた相応の文化的な価値があると思います。
つまり、この地区は世界に誇れる場所であり、誇るべき地区です。もっと自慢してほしい
という意味をこめて、基本コンセプトは「天守閣に一番近いまち」としました。
まちが生きている以上、まちは変化します。今ここでもう一度、このまちをどんなまちに
したいのか、どんなまちに住みたいのかをイメージし、共通の夢をもつことが必要である
と思います。この提案は、これまで歩んできたまちの歴史を再認識し、将来のまちの姿・
夢についての共通のイメージをもち、その夢の実現に必要な具体のプロセスのイメージ作
りをするための提案です。

 お城のむこう
本田鉄兵、永野俊哉 (大阪市)

今回、おもてなし空間を考えるにあたり、改めて姫路の街を歩いてみました。次の事が印象に残りました。
     古い日本の美しさを感じた好古園
     両側を背の高い石垣に囲われた姫山公園     国道2号線沿いで、突然「自然の壁」として現れた中堀の石垣     両側を船場川と内堀に囲まれた遊歩道
これらの場所で、姫路に残る城下町の奥深さ、広さを角を曲がるたびに感じました。
ただ、本丸が賑っているにも関わらず、観光客の方を見かけなかったことが残念でした。
そこで、これらの場所にも観光客の方に足を運んでもらい、姫路城下が持つ奥行きや
広がりを見つけてもらいたいと思います。
提案、具体的には、夜のイベントを提案します。
夜にイベントを行うことにより、宿泊を促し、時間を作ってもらうことが重要と考えたからです。
内容に関しては、本丸が観光地としての玄関口とするならば、その奥である姫山公園に誘
う仕掛けを考えました。

 城をつつむゆらめき空間:あかし夢街道
寺田昌代、大西和彦、嶋田邦男、高橋 悟、花畑 裕、廣岡茂久、藤田大介、松尾一久、松尾新吾(明石市)

私たちは、住む人訪れる人、共に心地よい空間となるよう、まちと城が一体となる
「姫路城を望むおもてなし空間」を地元の特産品を使い提案します「姫路城を望むおもてなし空間」とはどのようなものか。
それは、歴史を湛えた姫路城を取り囲む城下町を「安らぎ」を持った空間にすることです。
「ゆらぎ(ゆらめき)」の理論に基づいた「光」、「風」、「音」を総合的に演出
することで、訪れる人々の五感を癒す自然な「安らぎ」の空間となると考えました。 
「光」のゆらぎで浮かぶのは木漏れ日や水面の反射光があります。昼は水鉢を利用し、
その水面に写る光を、また、夜には灯篭、蝋燭の明かりによる光を利用します。
「風」は木陰での自然風で癒される効果を利用しますが、それを際立たせるために
「音」を組み合わせたいと思います。姫路の名産、明珍火箸(みょうちんひばし)を
使って、風に吹かれたその音色で通り行く人々に風を気付かせることができないかと考えました。
また、「風」を演出する道具として、暖簾も挙げたいと思います。店先の暖簾が風を
はらんで膨らむ様は通りに動きを付けますし、暖簾によって、通りの雰囲気をがらりと変えることもできます。
機能重視でゆらぎのないモノに囲まれて息が詰まる現代人に「風のそよぎにふわりと
揺れて、チリリン~と涼やかな音色を響かす明珍火箸。その音色に惹かれて顔を
見上げると姫路城が見えた。」そんな光景を見せる空間の演出で、人の気持を安らか
にするまた、まちぐるみで取り組むことにより、住む人にとっても訪れる人にとって
も魅力的な空間が創出できるのではないでしょうか。

姫路城を望む:おもてなし空間
田持成輝、大隈亮佑(藤井寺市、神戸市)

姫路の街が姫路城との一体感に乏しいとされるのは、姫路城の曲輪に直交する軸が強過ぎ
て、曲輪に沿う軸が表に現れていないせいであると思います。
地域住民の生活空間である曲輪に沿う軸を、もっと町の表情として表に出すことで、
姫路の街の住民生活の暮らしがみえるようになり、その暮らしの中で、姫路特有の文化や
歴史、生活などといった姫路らしさが町に漂ってくるのではないか、住民活動も積極的に
なり、観光客などの外部の人が姫路の街に接する機会が増えるのではないかと考えました。
そこで地域住民相互の、もしくは、地域住民と観光客などが接するおもてなし空間を町に作る事を提案します。
商店街に、フレキシブルな構造体を作り、利用者が様々な使い方を発見できるような建物、
すこし余白のある建物を提案します。
使う側が自由に使い方を想像できるような、木造の骨組みに様々な大きさのスラブや
間仕切りを差し込むことによって利用者がスペースを自由に作り、様々な生活の形を起草
させるようなものが姫路の町の表にあれば、様々な形の人と人との交流が行われる
おもてなしの空間ができるのではないかと思います。

 

参加頂いた多くの皆さんに感謝をこめて

平成19年11月1日(木)~11月6日(火)10:00~17:00
イーグレひめじ4階 ギャラリーにおいて 

都市デザイン競技「姫路城を望むおもてなし空間」応募全作品を全数展示を実施しました。
応募して頂いた全作品をパネル化し。建築士会会員のみならず、広く一般の方々、姫
路市民の方々へ見て頂きたいという思いでパネル展示を行いました。 イーグレ4階の
ギャラリーは、姉妹都市展示コーナーのあるスペースでもあり、世界遺産「姫路城」を
もつ、我が町を再認識する上で最適な会場となりました。
姫路支部50周年記念都市デザイン競技を担当したスタッフ、記念事業を担当した
スタッフで展示会場の設営を行いました。パネルを展示する為に 全作品を広げ、
配置レイアウトを検討していきました。
全作品を広げてみる事で、改めて、応募作品の力強さ、思いの深さを感じました。
展示を終え、一通り作品を見て歩きました。自分たちの住む『姫路のまち』を色々な
視点、切り口で捉え、地元に住む者として、地域を振り返ることのできるすばらしい
提案ばかりでした。デザイン競技を企画、運営できた事は、これからの建築、設計、
町づくりにとって貴重な経験となりました。 
応募頂きました皆様、本当にありがとうございました。
建築の仕事に関係する私たちが「まち」を考える良い刺激となりました。(森垣隆寛)

 展望型の高架式遊歩道:HsWorkShop–ASIA
平沼孝啓(大阪市)

現在の大手前通りは、非常に強い軸線を持ち、主要な姫路駅から姫路城へと強く導く。
この直接すぎるアクセス環境が強すぎるため、街の他の場所へと向かう方向性を消しているように思う。
私たちはこのような現況を踏まえ、大手前通りと二重に重なり点在する広場のような
アプローチ空間を想定し、街の魅力をわかりやすく伝えることのできる、アプローチ空間の現実化を試みた。
高架式の歩行デッキは、軸線の持つ方向性を周囲へと視線を分散する形状が必要である。
高架式とすることで、駅を降りた人々は、緩やかなカーブを描く高架式デッキ上に降り、
周囲を眺めることができる。デッキは広場スペースを兼ねることで、人の賑わいを感じ、
遠くに象徴となる姫路城を望みながら進むこととなる。地上では、アーチ状の構造体が、
門のような場をつくる。城までアプローチする間、門をくぐりぬける体験を通し、城下町
のイメージを高める装置となることを意図した。

 

 

今回のコンペのテーマは、姫路市にとって永遠のテーマとも言えるものでした。それだけに対象も提案内容も色々に考えられ、たくさんの作品を出していただけるか心配していたのですが、25もの力作が寄せられホッといたしました。
さて、今回いただいた全提案は会場に展示されていますが、提案対象で分けますと、城下全般をあつかったものと、大手前通りへの提案が各7件と多く、
お城の周辺地域を対象としたものが次に続いていました。
 また、提案内容では、修景や雰囲気作りなどのソフトを扱ったものが最も多く、次いで大手前通りへの街路整備で、建築士会の本業である構築的なものを圧倒していました。これは都市づくりというテーマのなせるところでもあり、時代の感覚でもあるでしょう。また、様々な立場の方々から提案をいただいたと言うことでもあったでしょう。
 審査は、まず委員の投票により約半数に絞りました。そしてその中から優秀賞4点を選ぶという手順で行いました。この段階で全員から推薦を受けた作品が2点あり、最終的には委員の議論によってその内の1点を最優秀賞としました。また、このとき優秀賞4点にもれた作品の中から、委員の強い推薦を受けたユニークな作品に特別賞を出すことにいたしました。
 まず最優秀賞(8)は、「城下町どまんなか」構想と題して、今の車道部分を歩行者空間として、車道を制限してトランジットモール化する提案です。道路の真ん中に城下町らしい仕掛けや横丁などの空間を設け、かつての国府寺小路のにぎわいを創出しようというものです。これは決して目新しい発想ではありませんが、大手前通りを人間の空間に取り戻そうという提案は、全員の賛同を得ました。交通計画などの課題もありますが、姫路城と大手前通りという姫路市の財産を活用して、すぐにでも取りかかって良い提案でしょう。
 次に、最優秀を最後まで競った作品(3)は、「天守閣に一番近いまち」として、男山南地区を取り上げました。今もかすかに残る旧城下町の雰囲気をブラシュアップして、姫路を訪れた人へのおもてなしにしようという提案です。この作品が評価された一番の理由は、場所を限って大変綿密な調査と的確なプレゼンで、その魅力を浮かび上がらせたことでしょう。普段気が付かなかった場所を、おもてなし空間として演出しようというのは、まさにまちづくりの視点でしょう。
 優秀賞の2つめ(14)は、「お城のむこう」と題した夜のイベントの提案でした。もう一寸向こうまで足を運んでもらえば、
きっとお城だけではない姫路の魅力を感じてもらえるのに、というのは誰も感じていることでしょう。そこはかとない灯りで誘導する夜お城周辺には、ゆったりとした癒しの空間を感じました。
 もう一つの優秀賞(15)も、お城の周りに癒しの空間をつくる提案で、「城をつつむゆらめき空間」と題されていました。
この作品では、木漏れ日や水面の反射、よりの灯籠や蝋燭などの「光」、暖簾や風鈴を揺らす「風」、
また風の存在を際だたせる明珍火箸の「音」など、決め細かな演出で現代人の心を安らかにしようというところに共感が集まったと言えます。
 以上が最優秀賞、優秀賞ですが、そのほかに委員からの推薦で2点の特別賞が選ばれました。その1つ(12)は西二階町商店街に、
連続する木造の格子状の構造体をつくって、街の一体感と共に、利用者が多様な使い方を発見できることを提案したものです。その建築的手法の確かさに強い推薦がありました。
 もう一点(23)は、大手前通りに蛇行する遊歩道デッキをつくる提案でした。駅からお城へのアプローチをスムーズにし、
街の雰囲気を一望してもらおうということですが、地上からの景観を阻害するのではという批判もありました。
しかし、何よりもグラフィックデザインの美しさには全員の評価がありました。
 以上、審査委員会を代表して、審査の経過と受賞作品への講評をご報告いたします。(審査委員長 志賀咲穂(長尾))

 

 

姫路支部創立50周年シンポジウム報告

 日程:平成19年11月10日(土)15:00~16:50
場所:姫路キャッスルホテル3階

 「姫路城をのぞむおもてなし空間」と題して行われた設計競技に応募され、入賞された方々を囲んで審査員や新聞記者も交え、
会場の皆さんと共に姫路のまちについて話し合うフリートークの時間を持った。応募25件のうち姫路在住7件以外、
全国各地から送られてきたもので、最優秀賞は鹿児島からの参加者だった。これは、ここに住んでいる者には気づかない、
見逃しそうな点への指摘を期待した。
その当初のねらい通り入賞の4点からは、私たち住民は自然に、当然のように使っている・通っている空間を再認識させてくれた。
眠っているお宝は沢山あります、いろんな楽しみ方ができます、と提案してくれている。
内容によっては直ぐにでも対応できそうだと言われる商店街への仕掛け。
中でも姫路の城下に一度住んでみたいという入賞者の声には嬉しかった。  
会場からも多数の意見で盛り上がり、応募者からの「お城すべてが見えるのではなく、○○ごしに見える姿も美しい」という視点のもちように、改めてお城の楽しみ方を学び感動した参加者。大手前通りの使い方や城前の駐車場など、
車社会から“ひと”の行き交う“ひと”の暮らすまちについて考え直す意見も多く聞かれた。
行政サイドからの意見も交わされ、この設計競技をきっかけに、
住民が姫路のまち中のあり方やおもてなしの空間について考える機会をもてたことに意義あるシンポジウムになったと感謝している。(平内節子)